ひろしまデザインびと n-13
Hiroshima Designer / Creator K's Design  2023.02.24 Fri

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K's design

昨年末、コンセプトワークの川上さんとお話しできて、さて次はこの方に
アポとります!と言ってもう 3ヶ月、ようやく伺うことができたのが
K'sデザイン室の金具さん。彼女は広告媒体をメインに、企画から
デザイン制作までこなす、アートディレクターさん。
お会いするのは先日の「 大先輩とのはればれ会!」以来だけど、こうして
向き合って話すとなると、やっぱり美人は緊張するなぁ. 笑

ks-designroom.com/

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この日はフェルトアートの「 ナナちゃん 」を納品するために
作業されていたので、無理言って現場を撮らせてもらった。



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Felt art

もうすぐ家族のもとへ帰る間近のナナちゃん。フェルトアート犬の制作は
もう 8年前かな、金具さんの愛犬「 びび君 」が亡くなったのをきっかけに
始まった。今や彼女のライフワークであり、大切な新事業になっている。

ks-designroom.com/feltart/
instagram.com/ks_feltart/

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ちょっとこの写真はわかりにくいけど、オーダーのアクリルケース背面には
生前のナナちゃんの写真が配置されている。写真の画像処理からレイアウト、
名前やメッセージなど、金具さん自らデザインしている。



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スケールは 27㎝ほど、実際の 3分の1ぐらいだろうか。
かわいいとか、生きてるみたいとか月並みだけど、金具さんの作る
フェルトアート犬は、そこに不思議なぐらいの存在感がある。


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なんと驚いたことにこの瞳は、この子の写真から画像処理して
プリントしたものに、透明な眼球を貼って作られている。
本人( 本犬 )のアイリス( 虹彩 )を使ってるんだ! すごいよね。
この鼻や舌、犬歯も、写真と飼い主さんから得る情報をもとに
造形用のモデリングクレイで製作したもの。


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かわいい肉球や、隠れている足の爪もリアルに。こりゃ たいへんだ。


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髭やまつ毛は てぐす( 釣り糸 )だと透明だし、一目瞭然で人工物って
なるので、毛足の長い筆や刷毛などから採取している。
先に伸びるほど細く、リアルにカーブさせているのが秀逸。








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本業はグラフィックデザイン、 K'sデザイン室は今年で創業 20年になる。



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なのでかわいいスタッフさんも、もちろんデザイナー。



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今まで 38匹の愛犬たちを作り、フェルトアートの技を培ってきた。
その工程と経験を振り返る。



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まずオーダーを頂いた飼い主さんから、大量の写真を出してもらい、
最終的に仕上げるポーズを決めて、そのサイズに合わせた
原寸大のプリントを作る。それをモデルに立体成形していくのだが
じつはこの写真が最も重要。

ほとんどの飼い主さんは、愛犬が亡くなられてからオーダーされている。
生前の写真は沢山あれど、例えば先ほどの肉球や、お尻の写真とか
真っ正面から見た顔の写真がなかったり... 造形に入る前の準備、
細部までの画像データを揃えるのが、たいへんなんだ。



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フェルトなので羊毛をベースに作るけど、なによりも毛の色味合わせが
難しいらしい。犬を飼ってる人ならわかるだろう、同じトイプードルでも
似たような茶色だが、何匹か集まるとみんな違う。
なので染色されたアルパカ毛も使うため、サンプルを多く取り寄せて
なるべく本人(本犬)の毛色になるように厳選している。

もちろん愛犬が存命で、オーダーされるケースもあるので
抜け毛でも長めなものを保存してもらい、羊毛やアルパカ毛と一緒に
刺して使うこともできる。
亡くなられていても もし生前の毛があれば、素体のどこか一部にでも
刺して残せる。こんな心配りがありがたいよね。




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それから制作へ。ベースの素体ができたら、画像をチェックしながら
ただひたすらフェルティング!  毛を丁寧にチクチク刺していく。
もちろん本業と並行しながらの毎日で、何時間? 何千回?刺すのだろう。
この手に持っている専用のニードルが、何本も折れるそうだ。

大きさにもよるけど、一体作るのに 1〜3ヵ月は かかるとか。
現在予約は 3年待ちである。



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それにしてもこんな途方もない作業で 出来ているとは、思わなかった。
もちろんそれなりの料金で、オーダーを受けている。でも
その倍の対価をもらっても 私ではとても作れないし、工程が分かるだけに
お断りするしかない。何ヶ月かかるだろ? いや 2、3年かけたぐらいじゃ
このクオリティにはとうてい及ばないのだ。







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そんな金具さんの机には 8年前に突然亡くなった愛犬、びび君がいる。
何年経っても変わらない びび君への想いが、金具さんの才能と繋がり
フェルトアート犬作りというライフワークになった。


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4年前に見たときは、このフェルトアートびび君 (2号)のクオリティと
再現力に驚かされたものだ。でも金具さんに言わせれば
この 4年で素材と制作技術は、比べものにならないほど上がってるらしい。
なのでまた新しいびび君(3号)を作ってみたいとか。 例えば原寸でも. 笑

でもまだ予約も多くて、しばらくはできそうもない。
それもちょっと辛いことだね。




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そんな金具さんの想いがカタチになった、今は亡きナナちゃん。
もうすぐ愛されていた 家族の元へ帰る。
飼い主さんの中には、届いても箱を開けて見ることができなかったり
見たとたん涙が溢れた人もいる。それを聞いた金具さんも
また泣いてしまう。


一緒に過ごしていた家族の、思い出の中の愛犬へ
その一番好きだった表情に、少しでも近づけるように
金具さんは今日もチクチク、刺し続ける。